スーザン・ジョージ:TTIPと新たなヨーロッパの運動
 
2016.05.04
 
 
スーザン・ジョージへのインタビュー。スーザン・ジョージは哲学者、政治アナリスト、アムステルダム国際研究機関計画委員会代表、ATTACフランスの元副代表
 
スーザン・ジョージが第4回Seminario do Convivencia Planetaria, Construimos Biocivilizacionに参加するためバルセロナを訪れている間に、私達は彼女と話すことができました。彼女はこの短いインタビューでTTIPやその調印の重大さについて語ってくれます。そしてヨーロッパに登場した新しい政党や運動について、また市民参加の重要性について彼女の展望を語ってくれます。
 
ラケル・パリシオとエッシャー・バズケスによる
 
TTIP(大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定)調印の直接的影響
 
人々、個人への直接的影響は、私達が輸入する食料が化学処理されていたり、遺伝子組み換え食品であったり、食品表示がなかったりすることです。あなた方が手にする食品がいったいどんなものか正確にはわからないのです。塩素で洗浄された鶏肉を買ったり、合成ホルモンで育てられた牛肉を食べたり、一つの植物遺伝子から別の動物に生合成された食品を食べたりするかもしれず、しかもこれには食品表示がないわけです。
 
アメリカ人は産地表示を絶対に外したいのです。つまりハムをセラーノハム(訳注:スペインで作られる生ハム)として売ることができないわけです。それは単なるハムなわけです。ワインはまだ産地表示があるかも知れない。しかしシャンペンは一般名称なのでカリフォルニアで作られたシャンペンもシャンペンなのです。フランスのシャンパーニュ地方産という地域表示は要らないわけです。
 
健康分野では、薬品会社はジェネリック薬品を排除しようとしています。彼等はすでにジェネリック薬品会社にあらゆる臨床試験を繰り返させることに成功したわけです。
それらはブランド名があり、すでに同じ薬で同様の臨床試験をしたのに、それをジェネリック薬品とするために、臨床試験、盲検などすべてもう一度最初から始めなければならないのです。だから薬はずっと高価なものになるでしょう。
 
再び農業分野では、非常に多くの農民を失うことになるでしょう。もし我々が農業関税を下げたら、アメリカのトウモロコシや穀物がスペインにどっと入ってきて多くの農民を破滅させるでしょう。それはメキシコの「カンペシーノ(小農民)」がNAFTA(北米自由貿易協定)によって壊滅させられたと全く同じように。
 
他の影響としてどんなものがあるか今正確に言うことはできませんが、欧州委員会が次のように言い始めました。おお、これはGDPの増加を意味する、そしてどのヨーロッパの4人家族も560ユーロ余分にもらえるだろう。しかし彼等が言ったこの研究は全く誤りであることが証明されました。それは全く非現実的なモデルをもとに示されたのです。彼等が使ったモデルは信じられないでしょうが、失業は存在しないというものです。たえず完全雇用で、もしこの分野で仕事がなければ、もう一つの分野で仕事があるなどというものだからです。
 
それは彼らがよく使うモデルなのです。実際に他の経済学者達が示したことは、雇用面での損害が多く、今よりさらに雇用が失われ、そしてそれは利益にならず、あるいはそんな限界収益点では有益ではないし、そして20年後も、あまり違いもないだろうということです。
 
しかし同時にTTIPはグローバル企業への贈り物です。それがTTIPの本質です。もし政府が通過させた法律を企業が気に入らなかったら、企業に政府を訴える自由を与えるのです。
 
我々にはいま多くの例があります。何百という2国間協定にはこの私的裁判制度が存在するのです。例えば、エジプトの政府は最低賃金を引き上げました。するとフランス大企業のベオリアはエジプト政府を訴えました。労働者にさらに多くの賃金を支払わなければならなくなるからです。このケースはまだ結審されていません。結審された例としてはエクアドルがあります。エクアドルはアメリカの石油会社が特別地域で掘削するのを拒否しました。そこは保護地域であり、そこを掘削することは出来ないとエクアドルは言ったのです。すると企業は「我々はあなた方を訴える」と言って、勝訴しました。そしてエクアドルに18億ドルの罰金を支払わせたのです。それは弱小国にとってはかなりの額です。
 
だから私的裁判制度は、投資家が自分たちの利益が損なわれたと言って、政府を訴えることができるようになるのです。
 
その他のことでは、企業は規制があるところはどこでも阻止したがります。だからもし規制があるなら、例えばフォルクスワーゲンですが、公表していたのより多くのCO2を排出していたスキャンダルはみな知っています。これはもし企業が自分の都合のいいような法律を作るとするなら、おそらく法的に合法になるでしょう。
 
そして規制を現実と調和させたいと言われています。しかしそれはどん底に墜ちることを意味します。そしていつもではないのですが、一般にヨーロッパの規制は、ここアメリカの規制よりさらに強く保護的です。
 
薬品の例をあげるとすれば、過去数十年ヨーロッパは市場で禁止された12,000の薬品を取り除いてきました。同じ期間でアメリカは5種類の薬品を取り除いただけです。
 
そしてそれはアメリカの制度では、3ヶ月以内にこれは違法であることを申し立て、それを市場から取り除かなければならないという規制当局の方針に従ったまでです。そんな短期間に違法を証明することはきわめて難しいことです。
 
そこでヨーロッパでは疑いがあると言うとき、この製品の安全性もしくは処理過程に関して疑いがあると言います。そしてそれ故に、それが安全であると証明されるまでノーなのです。全く反対の制度ですよね。アメリカでは有害であると証明されるまで安全なわけで、ヨーロッパでは安全が証明されるまで有害であるわけです。
 
だからこれら全てのことは我々の日常生活を変えることになります。そして私がまだ述べることができないことがありますが、それはTTIPがきわめて秘密にされているからです。まだ調印されていません。我々の代表でさえ多くを知ることができません。彼らは読んだことを公表しないことを誓約させられます。彼らは余り役に立ちません。それは彼らの罪ではないのです。
 
しかしそれは民主主義にとって脅威です。それはすでにきわめて強力になった超国家企業への贈り物なのです。
 
アダ・コラウ(訳注:バルセロナ市長)のような新たな政治勢力
 
彼らは力を持っていませんが多くの象徴的な力を持っています。アダ・コラウはバルセロナで多くの都市や地域の会合を持ちました。彼らはTTIPフリーゾーンを宣言しました。
 
それは象徴的な意味を持っていて力強いものです。彼らはスペイン政府が調印しても実際は逃れることが出来ません。しかしそれは重要な政治的反対勢力であり、これはヨーロッパで広められねばならないし、アメリカでも広められねばならないのです。
 
フランスには多くの地域があります。我々は2004年と2005年にこの運動をフランスで始めました。なぜなら我々は貿易サービスに関する包括的一般協定があるからです。GATS(General Agreement on Trade and Service)は世界貿易交渉組織の一部でした。そしてそれらは公共サービスを含むさらに多くのサービスをWTO協定に入れてことを望みましだ。そして我々はそれを打ち負かしました。1000以上のフランスの地方自治体や地域レベルの組織が、「我々はGATSフリー・ゾーン(除外地域)だ」といって運動を展開することによって打ち負かした。
 
そしてこれは再び今回TTIPのために結集しました。だからそれらはいたるところで進められるべき運動であり、かなり多くののヨーロッパ諸国が、かなり多くの地方自治体を集めるときヨーロッパへの大きな圧力になるでしょう。
 
ちょうど欧州委員会には、ヨーロッパでの抗議行動や署名の数がすでに圧力となっています。
 
私たちはヨーロッパ全域からこの協定に反対する340万の署名をあつめました。だから市民が目覚めていることがわかります。そして西ヨーロッパ・中央ヨーロッパ・東ヨーロッパが一つの問題で初めて一つになりました。
 
21カ国がEUによって定められた署名規定数に達しました。CETA(訳注:EUとカナダとの貿易協定)やもちろんTTIPにノーと言っています。だからそれはよい兆候です。我々は前進しているのです。
 
DIEM25やPLAN BやNUIT DEBUTのようなヨーロッパの新たな運動
 
将来に関する問題については、私は皆さんと同様答えることは出来ません。
 
しかしこのような運動がさらに起こると私は思います。そしていくつかのPlan Bと呼ばれる運動もあります。VaroufakisのDIEMもあります。今その他の試みもあります。フランスではNuit Debutのように若い人々が集まっています。それらは他の国々でも広まっています。そして運動が多くなればなるほど、うまくいっています。
 
ヨーロッパは本当に危機状態にあるので、我々には反民主的なEU委員会は信頼できません。民主的欠陥があるだけでなく、人々の声に耳を貸さない反民主的政策があるだけです。
 
だから、このような運動が多くなればなるほど、運動は前進するのです。そしてVaroufakis DIEM運動はこの運動をあと10年間で段階的に推し進めようと言っています。まず我々は秘密主義を取り除かなければなりません。私たちはヨーロッパの計画について知らされていないので、市民は知る必要があるからです。だからまず我々を統治している不透明さを取り除かなければなりません。
 
非常に重要なのは、ヨーロッパが民主的に組織されていることです。なぜなら今現在ユーログループのジェロエン・デイセルブルム議長(オランダ財務相)は選挙で選ばれていません。中央銀行のマリオ・ドラギ氏も選ばれていません。ユンカー氏(訳注:又はジャン=クロード・ユンケル、欧州委員会委員長)は非常に間接的に選ばれています。だから国会だけはあるが、強い影響力をもった人々はほとんど選ばれていない官僚なわけで、ただ彼等自身の世界だけに生きています。彼等はどこか雲の上で決まりを作っています。決まったときにはすでに遅いのです。我々には討論もありません。
 
非常に危険なことが起きたこともありますが、我々にはそれに反対を組織する時間がありませんでした。しかもそれはビジネス上の秘密という法律です。ビジネス上の秘密に関する指示書では、もしあなたが内部告発者でビジネスに関して何か明らかにしたら、企業はあなたを訴えることができるます。そして皮肉なことに今現在、今週二人の若者がルクセンブルグで裁判にかけられています。彼等はルクスリークス(Luxleaks)に関して情報を我々に知らせたからでした。
 
ルクスリークスとはルクセンブルグの制度の名前です。そこでは何百とまでいかないまでも何十という企業が協定を結んでいます。それらの企業が全ての利益をルクセンブルグに持ってきて、極めて少額の税金しか払わないのです。
 
だから我々がフランスで国会報告をしたのは、もしこのようなタックス・ヘイブンがなかったら、政府は少なくと60億か80億ユーロ余分に毎年予算に入れることができただろうということでした。それは我々が社会保障のために必要なものです。それは学校のために必要なことです・・・そして我々はこれらの税を受け取っていません。それで我々は大企業のために機能する税制を持たざるをえません。しかし私達が持たなければならない税制は、お金持ちの個人にタックス・ヘイブンを使うことを止めなければなりません。市民は支払うように義務づけられているので、税を支払っています。私達には住所があるので、お金をケイマン諸島には置きません。
 
だからどんな運動もこの秘密主義に対する闘いだと思うのです。つまり我々を支配するあらゆるお金持ちや豊かな企業に対する闘いであり、税基盤となるヨーロッパの維持費分担を回避しようとする勝手気ままなやり方に対する闘いなわけです。それらは重要な闘いです。そして運動が大きければ大きいほど効果があるのです。
 
制度はどのように変えられるのか:自己組織化の臨界状態
 
人々がいつも知りたがるのは、それはいつ変化するのかということだです。それは私が答えられる問題ではありません。しかし私が説明しようとすることは、科学の概念で自己組織化臨界状態と呼ばれるものがあります。それは複雑に聞こえるかも知れませんが、余り複雑ではありません。
 
それが意味することは、科学におけるシステムは、サンドパイル(砂山)のように単純です。それは絶えず外界から注入されています。だからここにサンドパイル(砂山)があるとしましょう。それはこんな高さで、絶えず・・・ずっと落ちている砂粒です。
 
ある地点でこの余分な砂粒が、予言は誰もできないのですが、砂粒が次の瞬間に雪崩を起こします。そして全システムが再構成されねばならなくなります。それは同じものではなくなります。
 
そしてこのことが政治や社会でも起こりえることなのです。だから人々が、私はただの一人に過ぎない、私に何が出来るかと言うとき、私は言います。グループに加わりなさい。そしてそのグループの一要素になりなさい。つまり全システムを崩壊させる砂粒になりなさいと言います。
 
そして我々はそれがいつ起こるかは言えませんが、そのもう一つの何かを知っています。北極や南極で百分の一度暖まったら、氷山の一部が崩れ初め、氷山がそこになくなり、全てのものが溶け始めることがあります。
 
 
だからあらゆる物理システムはそのようなもので、人間のシステムもそのようなものだと信じています。だから私達はあなた方を必要としているのです。あなた方がどのような職業であれ。我々はもう一つのテレビ放送を必要としています。我々は新聞のもう一つの記事を必要としています。我々はグループをまとめるもう一つの組織を必要としています。そして誰かが何か言って、突然政治家が理解して、システムが再構成されるのです。
 
だから「自己組織化臨界状態」は政治の分野でも言えることなのです。
 
 
訳注1アダ・クラウ(Ada Colau Ballano:は、スペイン・バルセロナ出身の社会活動家・著述家・政治家。第113代バルセロナ市長(2015年-)。バルセロナ初の女性市長である。カタルーニャ州のスペインからの独立を支持している。
                    
2009年にバルセロナで設立された「住宅ローン被害者の会」(PAH)創設メンバーのひとりであり、2014年までこの団体のスポークスパーソンだった。2008年の世界金融危機を発端とするスペインの不動産市場の崩壊や、悪質な抵当条項による立ち退き通告の増加に呼応して設立された。(ウィキペデアより)
                    
alterglobe.net
2015年6月12日金曜日
                    
スペイン:「広場占拠運動」の活動家がバルセロナ市長に
                    
※先に行われたスペイン統一地方選の情報を、許可を得て転載します。
                    
5月24日にスペインで一斉地方選挙が実施され、左派政党「ポデモス」と、ポデモスの支持を受けた地域政党が躍進した。二大政党の人民党と社会党は得票率をそれぞれ、前回(11年)の37%、27%から27%、25%へと減らした。初めて一斉地方選挙に参加したポデモスは(単独ではなく他の左派政党との連合で)、約14%を得た。
                    
前回の地方選挙では、経済不振と社会党への不満の高まりの中で人民党が圧勝した。今回の選挙で人民党のラホイ首相は経済回復の予想を強調し、未知数の左派政党に経済運営を任せることはできないと訴えた。しかし、人民党は議席数を大幅に減らし、多くの州や都市でポデモスや市民党が議会においてキャスティングボートを握ることとなった。
                    
カタロニア州の州都バルセロナ(人口160万人)では、11年の広場占拠運動や住宅占拠運動の活動家のアダ・コラウさん(41歳)が市長に選出された。コラウさんは地域政党「バルセロナ・エン・コム(みんなのバルセロナ)」の代表で、住宅強制退去をやめる、公営住宅を増やす、富を再分配する等の公約を掲げた。
 首都マドリードでは人民党が第一党を維持したが、僅差で第二党となった「アオラ・マドリード(今日のマドリード)」のマヌエラ・カルメナさん(71歳)が6月の市議会で市長に選出される可能性がある。同党も広場占拠運動の活動家によって結成された地域政党でポデモスの支持を受けている。
                    
第三の都市バレンシアでも左派政党の連合が成立すれば左派の市長が誕生する。
 英国「ガーディアン」紙は次のように報じている。
 「マドリードとバルセロナでの左派連合の躍進が示唆することは、今後スペインの二大都市における政策課題がスペインの『怒れる者たち』の運動をルーツとする反既成勢力の政党の優先課題によってけん引されるということである。
 年末に実施される総選挙を前に、今回の選挙は有権者たちのムードをテストするチャンスだった。示されたメッセージは明確だった。スペインの人々は、フランコ独裁体制の終焉以降のスペインの政治を特徴づけてきた二大政党による支配を終わらせることを支持した」 (同紙5月25日付)。
                    
米国の公共ラジオ放送NPRによると、「この数日、スペインでもっとも頻繁にツイッターで転送されている画像は、13年6月に警官隊がアダ・コラウさんを逮捕している写真である。コラウさんをはじめとする反貧困デモの参加者が、住宅からの退去強制に反対してバルセロナの銀行を占拠しようとしていた時の写真で、『歓迎、新市長』というメッセージが添えられていた」 (同25日付)。
                    
コラウさんは住宅強制退去に反対する直接行動で数十回警察に拘束されている。2年前には国会の公聴会で住宅強制退去の問題について証言し、同席した金融産業の代表を激しく非難し、議会による懲罰を受けた。この証言によって彼女は緊縮政策と失業に苦しむ多くの人々の共感を得た。彼女は広場占拠運動に先立つ09年から、住宅強制退去に直面している人たちを支援するグループ、PAHを結成して活動を始めてきた。
                    
今回の市長選挙に向けて、「バルセロナ・エン・コム」のほか、「ポデモス」、「カタロニア緑の党のためのイニシアチブ」、「統一オルタナティブ左翼」などの政治グループや市民団体が力を合わせた。
 同24日夜、コラウさんは選挙本部前で支持者たちを前に、「ダビデがゴリアテに勝ったのだ」と語った。また、オーストラリアの「リンクス」誌のインタビューに答えて、「……選挙運動はこのような『民主主義革命』の流れの中で形成された。私たちは誇るべきである。他の国だったら反応は全く違っていただろう。しかし市の政治は歴史的に、下から上へ、人々に近い所から破裂が起こる場所なのだ」と述べている。
                    
“翻訳:喜多幡佳秀、「労働情報」誌6月15日号より”
http://blog.alterglobe.net/2015/06/blog-post_12.html
                    
訳注2CETA 2013年10月、カナダとEUの間の包括的経済貿易協定(Canada-EU Comprehensive Economic and Trade Agreement: CETA)の基本合意が発表された。
                    
訳注3:DiEM25 とは Democracy in Europe Movement 2025 の略で、昨年バルファキスによって起ち上げられた、EUの改革を目指す政治運動である。その参加者リストにはイーノの他にも、ジュリアン・アサンジ、スーザン・ジョージ、ケン・ローチ、クリスティアン・マラッツィ、アントニオ・ネグリ、サスキア・サッセン、スラヴォイ・ジジェクなど、錚々たるメンバーが名を連ねている。
                     http://www.ele-king.net/news/005030/
                    
訳注4:2月9日、ベルリンにて、Democracy in Europe Movement '25 (DiEM25)の立ち上げイベントが行われた。当日は、午前11時から午後6時まで記者会見兼初回ミーティングが行われ、午後8時半から午後11時まで一般参加者向けの立ち上げイベントが行われた。私は両方とも参加した。以下はその記録である。
                    
まず、記者会見会場には常時100名以上の記者や活動家が入っていた。出入りも激しかったので、少なくとも200名、もしかしたら300名近くの人たちが会見に参加したのかもしれない。
                    
会場では、部屋の中央を中心として、円形に椅子が並べられていた。椅子を確保できなかった参加者は窓際に立っていた。2時間のミーティングが三回行われた。各ミーティングでは15名がそれぞれスピーチを行い、その後他の参加者も交えた議論へと進む。
                    
話の内容は、主にDiEM25の大きなテーマやねらいであった。DiEM25には、短期・中期・長期のねらいがそれぞれある。短期的なねらいは、ユーログループのすべての会議をネットで生中継すること、そしてすべての会議の議事録をとること。中期的には、ヨーロッパ投資銀行を通じて、黒字国から赤字国へ利益の循環を行うこと。長期的には、ユーローグループの代表をヨーロッパ全体で民主的に選出し、新しいユーログループのための憲法を制定すること。最後のねらいは、2025年までに達成する予定である。
http://kenjihayakawa.blogspot.jp/2016/02/diem25.html
                    
訳注5:レスター・ブラウン氏は、地球環境に負荷をかけない視点からの経済活動こそが、人類の未来を明るくするという同氏が提唱する「エコ・エコノミー」の概念は、現在は「プランB」として体系化され、持続可能な社会を実現するための具体的な方策提言として各方面から注目されています。
私たち環境文化創造研究所は、レスター・ブラウン氏の提唱を広く普及することで、日本における環境に対する認識の向上のための企画、環境運動に努めています。
 http://www.kanbunken.org/activities/earth/
 
―欧州には一つの階級戦争がある―
 EUへの市民的不服従へ
 
5月28日に全欧州行動を
 プランB欧州
 
 この二月二一日、マドリードで「プランB欧州」という会合が開かれ以下に紹介する宣言が発表された。もう一つの欧州をめざす市民的不服従と民主的反乱を全欧州の民衆に呼びかけるものだ。この会合の意義については、スペインのミゲル・ウルバン・クレスポによる簡潔な報告を追って紹介したい。(「かけはし」編集部)
 
 グローバルな経済危機の始まり以来、新たな運動が世界中で巻き起こってきた。
 それは、真の民主主義と実のある参加を求める運動、民衆の自らのための決定権を求め、政策決定の中で反映され尊重される彼らの権限が確保されることを求め、多数に背を向け特権的少数に利益となっている一つのシステムと衝突する本来的任務を要求する運動だ。それは、民主主義の本質的な一部分として、欧州構想の心臓部に、諸々の人権、市民的、社会的、経済的、文化的、そして民主的な諸権利を置く運動だ。
 二〇一一年以来、欧州の諸々の街頭、広場、職場は、諸権利を求める民主的諸闘争、社会的かつ政治的光景を揺るがし、そして形作ってきた諸闘争のゆりかごとなってきた。
欧州の諸運動は、今日EUの骨組みとなっている諸機構と諸政策からなる合成体と衝突してきた。これらの諸機構に深くはらまれた反民主的本性は、それらの当初からの、また現在の目的を反映している。その目的とは、企業と金融の部門の利益、また今日の寡頭支配層を構成するさまざまなエリートたちの利益に奉仕することだ。
 それらは、欧州市民の視野の外で、闇の中で不透明さの中で活動している。
 それらは、ロビイストの諸軍隊を展開している諸企業と金融諸企業にこびへつらっている。それらは、欧州民衆の利益という名の下に、しかしそれに敵対する諸条約を交渉中だ。
 われわれは、それらがわれわれの暮らしに苦しみを与える諸決定にどのようにして達しているか、それに光を当てる透明性を求める。
 われわれは、あらゆる点でほとんど非現実的かつ不合理な主張、欧州はその公的債務と私的債務を返済できるという主張に異議を突き付ける。
 われわれは、債務を監査し、正統性を欠き不法な債務の返済を拒否する民衆の主権をはっきり主張する。
 欧州のエスタブリッシュメントたち、ブリュッセルとフランクフルト(ブリュッセルにはEUの中枢機関、フランクフルトには欧州中央銀行がある:訳者)の諸機関は、僅かの者たちのために数兆ユーロを費消する一方で、多数に対しては、緊縮を説教している。欧州には単なる「緊縮」ではなく、社会と諸国家の残りから自分たち自身へ所得と富を再配分しようと決意した支配的エリートどもによる、共有財並びにわれわれの諸権利の盗み取りを原因とする、一つの階級戦争があるのだ。
彼らのモデルは、巨大な失業と不安定性を内容とするモデルであり、それが、貧困を生み出し、不平等を高め、労働者たちを互いに敵対するように押しやり、女性に対する暴力を永続させ、環境を荒廃させ、社会組織を破壊している。それは、社会的福祉国家と社会的公正に敵対するモデルだ。
われわれはもはや、どのような民主的統制からも外れている、そうした単一通貨と引き換えにするこれ以上の犠牲はいかなるものも受け入れない。民衆に敵対する武器としてユーロあるいは流動性を利用することからわが民衆を守るために、政府にあるときは、われわれに力を与えことになる、そうした一つのプランを固めることは、われわれの義務であるとともに責任でもある。われわれは、主権をもつ民衆と鮮明な民主的な権限付与に敵対した昨年夏のクーデターの繰り返しを容認しないだろう。
われわれは、金融システムに対する民主的な統制、並びにその機能における透明性を要求する。
われわれはECB(欧州中央銀行)、欧州委員会、またIMFの不法かつ非民主的な諸々の行為に抵抗しなければならない。いわゆるユーログループは、われわれの運命を決め、未来の諸世代のいのちを支配する場ではない。
いわゆる境界のない欧州はここまで、あらゆるところで、バルカン半島から大西洋岸まで、壁と電流を通したフェンスを建て続けてきている。われわれは要求する、難民を入れさせろ! 人々が彼らのいのちのために逃げているとき、欧州は、断固として排外主義とレイシズムを拒絶し、単に腕を広げるだけでよいのだ。難民問題は人道の問題であり、われわれはそれについて、軍事化の誤りを明らかにする。すなわちわれわれは、NATOの関与にノーと言う。
欧州は、腐敗と不法な借り入れに結びついていることが判明した、その軍備と防衛支出を抜本的に削減しなければならない。そして、医療、教育、社会保障、司法、文化に関する公的支出を高めなければならない。
民衆の生活諸条件の悪化はまた、自然の破壊および世界中での資源獲得戦争にも結びついている。われわれは、全員にとっての社会的公正を欲するのであれば、生態系の危機とエネルギー危機を扱いそこなってはならない。
欧州の現在の状態を考慮しわれわれは、EU諸機構の毒をはらんだ諸政策、諸協定、あるいはすべての非民主的指令に対する市民的不服従を、さらに支配的エリートたちによるそれらの勝手な解釈替えに対する市民的不服従を呼びかける。われわれは、新たな憲法制定運動と拘束力のある国民投票を通した自己決定を必要としている。われわれは同様に、政府内にあるときには、人びとに対する最低限の民主的義務として、非民主的な指令に対する不服従を確固として確認する。
マドリードでの会合は、欧州における民主主義を求めて闘うための諸提案とさまざまな運動の結集において、前進に向けた一歩となった。われわれは、さまざまな戦術を含んだ諸結論が広範に読まれ、広められ、討論され、磨きをかけられるよう求める。そしてさらなる会合がいくつも欧州中で組織されるよう求める。欧州の人民は、専制に対しいかに反乱するかを知っている。われわれは歴史を通じて、民主主義を獲得し、平等を確立し、われわれの暮らしと諸権利と尊厳を守るために、これまでそれを行ってきたのだ。
マドリード会合は、五月二八日に欧州行動デーを組織するよう提案する。(二〇一六年二月二一日、マドリード) http://www.jrcl.net/frame160314f.html
 
訳注6:今、フランス全土を揺るがしているデモ活動がある。「ニュイ・ドゥブー」である。
                    
ニュイ・ドゥブー(Nuit Debout/「ニュイ・デブー」とも)は「夜、立ちあがれ」あるいは「立ち上がりの夜」「夜通し起きろ」という意味。Deboutといえば、ウジェーヌ・ポティエによる労働歌「インターナショナル」の冒頭句「Debout, les damnés de la terre. Debout, les forçats de la faim」(起て、地に捕らわれし者。起て、餓えたる者よ)を想起させる。ニュイ・ドゥブーは19世紀におこった革命的サンディカリズムの時代から続く、フランス社会運動史の系譜に根ざした直接行動なのである。
                    
発端は2016年3月31日、政府による労働法改悪への反対デモだった。かねてから社会党政権によって提出されていた新自由主義的な労働法改訂案(エル・コムリ法案)は、週35時間労働制の実質廃止をはじめ、労働者側にとって不利なものだった。これに対し、昨年11月に発生した同時襲撃事件以来の非常事態宣言の延長に不満を募らせていた市民は一斉に反発、抗議行動を起こしたのだった。
                    
3月31日にパリ・レピュブリック広場(共和国広場)で起こったデモは、普段とは様相を異にしていた。デモはいつまでも終わる気配を見せず、参加者が延々と議論を始めたのだ。以後、共和国広場では毎日、夜になると市民たちが集い、思い思いに意見表明(マニフェスタシオン)を行うようになったのだ。
                    
現在、ニュイ・ドゥブーはフランス国内のみならず、ベルギーやオランダ、スペインなどヨーロッパ各国に拡大している。2011年に米国で発生した「オキュパイ・ウォール・ストリート」運動とも比較されるこのニュイ・ドゥブーは参加者の自発性の強さを特徴としており、4月9日に表明された「バルス首相と飲もう」(Apéro chez Valls)というスローガンや、4月20日にアマチュア楽団により行われたドヴォルジャークの交響曲「新世界より」の演奏など、その運動のバラエティの多様さで注目を集めている。
                     http://societas.blog.jp/1056370273
                    
訳注7:self-organized criticality(自己組織化臨界状態)
 
                    
 
 
 
 
 砂粒の増加     危険な傾斜     雪崩発生
 傾斜が増す               傾斜減少
(下記画像より)
https://www.google.co.jp/search?q=self+organized+criticality&biw=911&bih=409&tbm=isch&source=lnms&sa=X&ved=0ahUKEwib_oHfqYHOAhUP9mMKHSHkBUIQ_AUIBygC&dpr=1.5
 
<新見コメント>
 この翻訳をしてみようと思ったのは「マスコミに載らない2016.5.26」のサイトで(PeterKoenig海外記事欧州連合崩壊:国家主権と幸せなヨーロッパ人への回帰?)の記事を読み、その中で引用されていたこのスーザン・ジョージの文章がTTIPに関して具体的でとてもわかりやすい事例を挙げていたので翻訳してみようと思いました。例えば、「もし農産品の関税を下げれば、アメリカの大量の[膨大な助成金を受けたGMO]トウモロコシや基本的な穀物が、スペインにどっと押し寄せ、多数の農民を破滅させるだろう。北米自由貿易協定NAFTAによってメキシコの"カンペシーノ(農民)"が亡びたのと全く同じように、農業分野で、非常に大人数の農民を失うことになる可能性が極めて高い」とか、ジェネリック薬品に再度臨検、盲検をさせ高額な薬品にさせて、新しい新薬が対抗できるようにしているとか、アメリカの規制基準が甘く、ヨーロッパの厳しい規制基準がアメリカの水準に合わせられるとか、ISDS条項ではエジプト政府の最低賃金引き上げにフランス大手企業が反対して訴訟を起こしているとか、エクアドルでは保護地域でアメリカの企業の石油掘削を止めたら、損害賠償をさせられたとか、ISDS条項が持っている危険性が見事に書かれていました。
 このTTIPの矛盾点はTTPにも共通するもので、とても参考になりました。日本の大手メディアの報道ではなかなか報道されず、すでに決まってしまったかのような印象さえあります。自民党も政権を取り戻す前はTPPに反対の姿勢をとっていたのにいつの間にか、アメリカの言うままに進んで締結をしてしまいました。TPPが国家の決定より上にくるものとして、自国の独立をも脅かすものであることはあまり知られていません。「マスコミに載らない海外記事2016.5.26」とともに是非お読みください。
 しかし私は途中でこの翻訳をあきらめようとしました。ヨーロッパの民衆運動についてあまり知らず、最後の部分の科学的なたとえがさっぱり理解できなかったからです。例えばバルセロナ市長に当選したAda Colauさんのこと、DIEM25やPLAN BやNUIT DEBOUTの運動については全く知りませんでしたが、ネットで調べて少しずつわかるようになりました。私が調べたことは訳注として最後に載せておきました。
 またsand pileが砂杭なのか砂山なのかはっきりしません。理系の友人や土木関係の仕事をしている息子に聞いてみて、sand pile砂杭だったらは地盤を固めるためにsand pileを地中に打ち込み、そして地中の水分を抜き、地面を固めるために行う工法だそうですが、それがどうしてavalanche(雪崩)を起こすのかよくわかりません。
 しかし友人の生田豊伸さんの指摘で、sand pileを砂山と訳せば砂山にどんどん砂粒を落としていけばいつかは崩れ、avalanche(雪崩)を起こすことはわかります。そこでネットでself organized criticalityを調べてみると「自己組織化臨界状態」と書かれていました。訳注7で載せた画像にも砂山が崩れていく様子が描かれていました。ここではsand pikleを「砂山」とself organized criticalityを「自己組織化臨界状態」と訳しておきました。詳しい方の援助を求めたいところです。
 最後に、DiEM25の10年を見越した段階的戦いですが、最初の段階は欧州委員会内部の秘密性と廃し討論を公開させること、中期的には黒字国から赤字国へ利益の循環をさせること、長期的には欧州委員会のメンバーが全ヨーロッパ人によって公選させることと書かれています(訳注4)。ここからEUがいかに非民主的で、一般の国と同じように格差の矛盾があるかがわかります。そしてこれは当然の要求なわけですが、果たしてそれが妥当な運動方針であるかどうかという疑問があります。イギリスの国民投票のようにEU離脱という方針もあり、その方が近道ではないかとも思えてきます。
 浜矩子氏は、どだい通貨を同じにして、各国が独自の金融政策を講じられないということに無理があると一貫して述べておられます。例えばギリシャは危機の際に通貨がユーロですから通貨切り下げなど独自の対策が打てず、金融支援+緊縮財政で未だに財政危機を脱することができません。一方アイスランドは独自通過なので、IMFやECBなどの金融支援をたてに緊縮財政を押しつける政策をとりませんでした。社会保障を切り詰めることなく財政出動して危機を脱することができました。("How Austerity Kills" By DAVID STUCKLER and SANJAY BASUPublished: New York Times, May 12, 2013
 一方ポール・クレイグ・ロバーツ氏はEUの構想そのものがアメリカによる政治支配の一環であって、CIAによって画策されたものであると次のように述べています(「マスコミに載らない海外記事20216.6.23」Brexit:一体何が本当の問題か?)。「もう一つの強力な権益は、一国が離脱すれば、他の国々の離脱を誘発することになるのを防ごうとする、アメリカ政府の関心だ。アメリカ国立公文書記録管理挙局で発見されたCIA文書にはっきりと書かれている通り、EUは、CIAの構想であり、狙いは、アメリカ政府が、ヨーロッパに対する政治的支配を行うのを容易にすることだった。アメリカ政府にとって、28の個々の国々を支配するより、EUを支配するほうがずっと容易だ。しかも、もしEUがほころび始めれば、アメリカ政府の侵略にとって必要な隠れ蓑であるNATOもほころびる可能性が高い。」
 このように考えるとEUの民主化は可能なのかと疑問を抱かざるをえなくなる。EUを離脱して一から国の主権を取り戻し、他国との連携の道を模索する道もあるのではと思えてきます。ギリシャの金融危機の際に国民投票で緊縮財政反対の意見が勝ったのに、急進左派生とシリザのツィプラス党首はロシアの財政援助でなく、IMF、世銀、ECBの緊縮財政の金融支援を受けてしまった。そしていまだに立ち直れていない。
 筆者はATTACの元副代表だとか。ATTACの方針についても検討する必要があります。この翻訳で考える素材がいろいろ出てきました。